Science Tokyo いじめ「ゼロ」プロジェクト

宗教研究からいのちの教育、そして本プロジェクへ リベラルアーツ研究教育院 宗教学 教授 弓山 達也

小学校を2度転校し、中学校は隣の学区域に進んだため、なんとなくよそ者扱いを受ける感覚やその洗礼を知っているつもりでいた。大学に入った1980年代、いじめが社会問題化していた時期も、「そんなことは、どこでも、いつでも起きるものだ」と高をくくっていた。1980年代後半から90年代にかけての陰惨ないじめ事件の報道に触れても、特殊な事例だという認識だったと記憶している。

大きな転機が訪れたのは、1997年から2004年まで全国青少年教化協議会(全青協)に研究員として関わったことだ。伝統仏教宗派の賛助によって設立された同財団は、当初は寺院の日曜学校のサポートなどを行っていた。しかし、1990年代後半から私と同世代のメンバーが実務を担うようになり、いじめ、不登校、犯罪、自殺、援助交際など青少年問題のテーマを毎年ひとつ選定。その根本的原因を探り、仏教界や個々の寺院がどのように取り組むべきかという課題を明確にし、調査と成果を仏教界に提供していった(具体的には年1回の泊まりがけセミナー開催とブックレットの発行)。

不登校児と山寺合宿で向き合ったり、トラブルを抱える青少年との共同生活を体験したり、自殺予防や少年院での教戒活動に関わったりと、さまざまな僧侶の活動現場に足を運び、多くを学んだ。また、子どもたちが抱える問題の深さや個々の特殊性だけでなく、彼ら自身ではどうしようもできない社会的・構造的背景の存在にも気づかされた。同時期に自分も子育て中で、東京シューレやヤマギシズム学園などのフリースクール、オルタナティブスクールを訪問。子育てをめぐって全青協のメンバーと掴み合いの喧嘩をしたこともあった。

活動は6冊のブックレットや動画教材などにまとめられた。その中で、さらに気づいたのは、青少年問題における宗教や超越的な次元の可能性だった。1990年代末からいのちの教育に注目が集まる中、モデル校を訪れると、原爆犠牲者への慰霊やお遍路さんへの接待などが平和教育や郷土教育の一環として展開されており、生命尊重の心を養うことに寄与している様子を目の当たりにした。祈りや目に見えない世界への思いが、青少年問題の解決につながるのではないかと考え、全青協での知見を踏まえ、いのちの教育の分野に進んでいった。

しかし、いのちの教育は教育、心理、看護といった分野が中心で、宗教のような非日常的・非合理的な要素が入り込む余地は限られていた。それでも宗教的資源をいのちの教育に活かせるのではないかと考え、幸いにも排除されることなく、教育分野で科研費を得るなどして研究を進めることができた。その結果、日本いのちの教育学会の副理事長となり、会誌『いのちの教育』の編集長として10号目を迎えるに至っている(2025年1月現在)。

本プロジェクトの中心は自然科学的な知識であるが、これとどのように絡み合わせ、シナジー効果を生み出していくかを、メンバーとの議論や協働を通じて模索していきたい。

プロフィール

弓山 達也(ゆみやま たつや)

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。
法政大学、大正大学大学院に学ぶ。大正大学教授、エトバシュ・ロラーンド大学客員教授などを経て、2015年より、現職。博士(文学)。専門は宗教社会学で、現代世界の霊性/宗教性、震災後文化、いのちの教育を研究してる。著書に『天啓のゆくえ』、編著・共著に『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』『平成論』『いのち 教育 スピリチュアリティ』『現代における宗教者の育成』『スピリチュアリティの社会学』『癒しを生きた人々』『癒しと和解』『祈る ふれあう 感じる』などがある。