Science Tokyo いじめ「ゼロ」プロジェクト

テクノロジーがもたらす「いじめ」、テクノロジーが防ぐ「いじめ」 リベラルアーツ研究教育院 メディア論 教授 柳瀬 博一

「いじめ」「ハラスメント」「生きづらさ」にまつわる問題は、学校や職場、地域社会など現実空間のみならず、サイバー空間で起きています。インターネットが発達し、SNSが普及し、誰もがスマートフォンを持ってコミュニケーションをとる時代、人と人とのコミュニケーションの不全がもたらす「いじめ」「ハラスメント」「生きづらさ」問題も必然的にサイバー空間が主戦場となりました。

学校、職場などでの交友関係も、現実世界の関係がサイバー空間に持ち越されるケースが多いため、もはやサイバー空間での調査と研究抜きでは、いじめ問題の根本的な解決は難しい時代になっています。

これまで、いじめは「校内」「職場」という場所に紐づいて起きていましたが、サイバー空間では24時間続く可能性があります。また、あったことのない人間からSNSなどで匿名攻撃を受けるサイバーいじめ問題も深刻化しており、芸能人の自殺事件などは記憶に新しいところです。

私自身は、もともとメディア業界に身を置き、ウェブメディアの開発を行い、大学ではメディア論を専門として、研究教育を進めてきました。メディアの専門家としての立場から申し上げると、現在のサイバー空間での「いじめ」問題は、スマートホンやパソコンといったハードウェアと、インターネット上のSNSや動画配信のようなメディアプラットフォームサービスとが普及したことで、だれもがマスメディアのように受発信が可能になる「だれでもマスメディア」時代がもたらしたものです。

生成AIの登場と発達により、だれもが個人に対してもマスに対しても気軽に情報発信ができるスピードと量はより拡大しています。裏を返せば、だれもが不特定多数の悪意に突然晒されたり、阻害されたりするおそれがある時代です。

どうすればいいか。
本「いじめゼロプロジェクト」では、ここで取り上げたサイバー空間とメディアテクノロジーの発達に伴って生じた、新しい「いじめ」「ハラスメント」問題を可視化する研究を志向すると同時に、テクノロジーを活用した現実社会とサイバー空間における「いじめ」「ハラスメント」問題の予防、早期発見、改善のスキームを専門家たちと構築するプログラムを研究中です。

また、学校空間での「いじめ」「ハラスメント」問題を教育機関、専門家の方々と共有し、現場での研究や出張授業による、改善案の提案を策定中です。

研究のプロセスと結果は、本サイトでも公表していきます。
ご期待ください。

柳瀬 博一(やなせ ひろいち)

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。
1964年生まれ。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社。「日経ビジネス」記者、単行本の編集、「日経ビジネスオンライン」の立ち上げおよびプロデューサーを務める。2018年より、現職。2023年、『国道16号線 「日本」を創った道』で手島精一記念研究賞を受賞。そのほかの著書に『カワセミ都市トーキョー』『上野がすごい』(滝久雄氏との共著)『親父の納棺』『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(小林弘人氏との共著)『「奇跡の自然」の守りかた』(岸由二氏との共著)『混ぜる教育』(崎谷実穂氏との共著)がある。